「半蔵さん。」
と声をかけながら、寿平次は落合から馬籠への街道を一緒に踏んだ。前には得右衛門と九郎兵衛、後ろには供の佐吉が続いた。公役見送りの帰りとあって、妻籠と馬籠の宿役人はいずれも袴(はかま)に雪駄(せった)ばきの軽い姿になった。半蔵の脱いだ肩衣(かたぎぬ)は風呂敷包(ふろしきづつ)みにして佐吉の背中にあった。
「そう言えば、半蔵さんのお友だちは二人ともまだ京都ですか。」
「そうですよ。」
「よくあれで留守が続くと思う。」
「さあ、わたしもそれは心配しているんですよ。」
「騒がしい世の中になって来た。こんな時世でももうける人はもうける。」
寿平次が半蔵と並んで話し話し歩いて行くうちに、石屋の坂の下あたりで得右衛門たちに追いついた。
「九郎兵衛さん、君はくわしい。」と寿平次は連れの方を見て言った。「飛騨(ひだ)の商人がはいり込んで来て、うんと四文銭を買い占めて行ったというじゃありませんか。」
「その話ですか。今の銭相場は一両で六貫四百文するところを、一両について四貫四百文替えに相談がまとまったとか言いましてね、金兵衛さんのところなぞじゃ四文銭を六把(ぱ)も売ったと聞きました。」
九太夫は大きなからだをゆすりゆすり答える。その時、得右衛門は妻籠からずっと同行して来た連れの肩をたたいて言った。
「寿平次さん、四文銭を六把で、いくらだと思います。二十七両の余ですよ。」
「いえ、今ね、こんな時世でももうける人はもうけるなんて、半蔵さんと話して来たところでさ。」
「違う。こんな時世だからもうけられるんでさ。」
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